うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

特任講師観察記断章。3次元的な音のフロー。

特任講師観察記断章。今学期の少なからぬ時間を使って音読を仕込んでみたけれど、いくつか見えてきたことがある。音量(アクセント)、音高(イントネーション)、音長(リズム)の3つのなかでことさら身に付きにくいのが音の長さの感覚であるのはどうやらまちがいないようだけれど、本当に難しいのは、これらのパラメーターを同時に操作して、3次元的な音のフローを作り出すことだ。

日本語の地名を英語的に発音することを考えてみるとわかりやすいかもしれない。「しずおか」の「お」に強いアクセントをつけるだけでは不十分だ。「し/ず/オ/か」とそれぞれの文字を均等な長さにしているかぎり、フレーズのこわばりはとれず、英語らしく響かない。「しず/オ↑オーかぁ↓」のように、「しず」をひとまとめにし、「お」で音高を上げながら長く引き伸ばし、「か」で軽く抜きながら下げることで、やっと英単語らしくなる。音楽的に言えば、「しず」をアウフタクトに入れ、「お」を表拍でとり、「か」でフレーズをとじるような感覚だ。

このあたりの感覚を体感させるための手段として、詩の朗読は有効かもしれない。TOEICのリスニングパートのスクリプトより、こういうテクストのほうが、言葉の音楽性やポーズの余韻を深く感じるには、教材としてはるかに優れている気がした。これがTOEICの得点アップに通じているのかはきわめて疑問であるし、下準備がなかなか手間ではあるけれど、同じものを100回も聞かなければならないなら、TOEICスクリプトよりシェイクスピアのセリフのほうが100倍いい。