うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

非常勤講師観察記断章。デジャビュ。

非常勤講師観察記断章。デジャビュ。ときどき強烈なデジャビュ感を覚えることがある。今日はそれが授業中に急にやってきた。特別な情景ではない。気だるげな午後の教室、湿った空気をかきまぜる空調のノイズ、机に座ったつまらなそうな学生たち、風にふわりと舞うカーテン。しかしその空間的配置から音の流れまで、空気の質感から肌の感覚までが、すでに体験されたはずのネガに徐々に重ね合わされていき、一瞬、すべてが完全に一致する。デジャビュ感が成就したことに歓びは感じられない。眩暈がして視界が揺れ、脳がいちど激しくゆすぶられる。いまここの現実が、自分のなかのイメージに吸収され、世界がまるで自分のものであるかのような気がする。しかし次の瞬間、デジャビュ像はまるで最初から存在していなかったように霧散し、時は前に進み、自分の意識が時間に置き去りにされるのを感じる。感覚的というよりは心理的な気持ち悪さだった。先取りしたはずの未来はついに訪れた、しかし、それはたどり着いた瞬間に先取り感を失い、過去のものになり、自分から剥がれ落ちていってしまうらしい。少しだけとろみを帯びた水のようなものが内面に残る。不快感だけを与える生ぬるさが内から外に染み出すように吸い込まれていく。というような不気味な体験をTOEICのIncomplete Sentencesのセクションの音読を学生にやらせているときに味わった。