うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

アメリカ観察記断章。アメリカの中華。

アメリカ観察記断章。外食は基本的にしない主義だったが、いまは昼を外で食べることが多い。近隣にある中華料理屋をいろいろ試したみたが、もう飽きてきた。基本的に7ドル前後のランチメニューないしはテイクアウト(to go)ばかりだからというのもあるが、アメリカの中華はどこで食べても似たような感じの味がする。味付けはどれもみたらし団子のタレに酸味を足したような感じ(かすかに酸っぱさを感じるトロリとしたタレが絡む甘辛系)で、肉肉しい。脂っこいというほどではないが、さっぱりからは程遠い。いちおう四川とかマンダリンとかタイワニーズなどの違いはあるが、ランチメニューとなるとどこも代わり映えしない。

店舗形態はいくつかに分けることができる。1)テイクアウト特化型。店内にイートインスペースがなく、持ち帰り専門。2)テイクアウト主体だが店内にちょっとしたイートインスペースがある。3)テイクアウトとイートイン半々。4)普通のレストラン。しかしどの形態でも持ち帰りはできるし、宅配(出前)を受け付けているところもある。テイクアウトにしても、ショーケースに出来合いのものを入れている店もあれば、その場で作ってくれる店もある。しかし価格帯はどちらでも変わらないし、量も大差ない。差異化はされているようでされていない。あえて違いを見つけるなら、エッグロール(春巻き)がつくかつかないか、スープがつくかつかないか、くらいだろう。

初めて行く店ではとりあえずオレンジチキンというアメリカの中華の代表例を試すことにしている。というのもこれは店によってかなり味が違うからだ。本当のオレンジの味がするところもあれば、オレンジジュースっぽい風味しかしないところもある。オレンジピールを入れるところはだいたい鷹の爪が強めに効いていて、ほろ苦さとスパイシーな刺激があるが、パンダエクスプレスのようなフランチャイズのものになると子どもが好きそうな甘ったるい方向に味付けがシフトする。オレンジチキンは基本的に唐揚げにした鶏肉にタレを絡ませるという料理だと思うが、揚げ方にしても、衣をカラっとさせる店もあれば、チキンナゲットのようなフニャッとした食感を目指しているらしい店もある。

オレンジチキンのほかにいろいろと試してみたのは麻婆豆腐だ。しかしアメリカで食べる麻婆豆腐は日本のものとかなり異なる。一番の違いは、アメリカの麻婆豆腐が「豆腐料理」である点だろう。要するに本当に豆腐だけで、挽肉が入っていない。少し肉が入っている店もあるが、基本的にスパイシーなタレのなかを豆腐が泳いでいるという感じだ。タレにはほとんどとろみがついていない。四川系だと本当にスパイシーだが、全体的に辛いというよりはしょっぱい感じがする。それはおそらく具が豆腐だけで味に奥行きがないせいだろう。味がスパイスと香味野菜だけなので余計に塩味を強く感じる。途中で飽きてくる味だ。

フランチャイズではない中華料理屋は家族経営というかスモールビジネスなのだと思う。あるテイクアウトの店では、小学生ぐらいの女の子がレジを担当していた。「え、この子にクレジットカードを渡すの」と一瞬躊躇したが、女の子は手慣れた様子で淡々とカード処理していた。これはさすがに驚いた。

付記。アメリカの「fried rice」は「炒飯」ではない。アメリカでフライドライスを食べるたびに、日本におけるあのチャーハンへのこだわりは何なのだろうかという気がしてくる。たしか周富徳だったか、子どものころ、腹が減ったときは卵とネギでチャーハンを作って食べていたという回想を披露しつつ、チャーハンに欠かせないのは卵とネギだと力説したが、アメリカのフライドライスにはそのどちらもほとんど入っていない。卵で飯粒をコーティングしてパラパラに炒める、というのは日本独自の料理哲学ではないのかという気すらしてくる。端的に言うと、アメリカのフライドライスは、その名の通り、炒めたご飯であり、とくにランチメニューやテイクアウトの「サイド」として供される場合、具はほとんど入っていない。卵が少し見えるが、だいたいは、油で炒めた米に味をつけたものにすぎないし、米が長粒系なので、どんなふうに炒めてもパラパラになるのだ。しかしいつも思うのだが、このパラパラというかバラバラのフライドライスをフォークで食べるのはかなり至難の技なのだが、テイクアウトのチャイニーズレストランがスプーンをくれることは稀だ。さらに話はずれるが、アメリカのテイクアウトの料理やでくれるスプーンやフォークは柄が短くとても食べにくい。自分のようにそこまで手が大きくない人間ですらそう感じるのだから、自分より大柄の白人の男などにはきっとスプーンは小さすぎるのではないかと思うのだが、なぜか、アメリカの外食産業は頑なに小さめのプラスティック製カトラリーにこだわる。不思議だ。