うろたどな

"These fragments I have shored against my ruins."

アメリカ観察記断章。「日本語」が聞こえてきた。

アメリカ観察記断章。先日巨大ショッピングモールを歩いていて、前方から「日本語」が聞こえてきた。自分の耳に届いたのは「えー」という音だけだったけれど、なぜか、それが日本語であると瞬時に断定できたのだ、すれ違うとき、確認のために耳を澄ませてみたが、はたして、ベビーカーを押す母親たちは日本語で会話していた。ひとり首を傾げながらモールを歩いていて、外国語の習熟度は、無意味な音をその言葉で発することができるかどうかによって測れるのではないだろうかという考えに行き当たった。実際、英語での「eh-」と日本語の「えー」はまったく違うし、自分でもまったく違うイントネーションで発音している。おもしろいのは、これが、意図的に模倣した結果ではないことだ。頭でっかちな人間なので、英語の音はできるかぎり意識的に学んできた。まるで楽器の音階練習、指練習をするように、フォニックスを勉強して実践してきた。しかし、この「eh-」については自然に身につけたものらしい。いまこの文章を書きつつ、自分がまったく別様に「えー」と「eh-」と言えることに気づいて愕然としている。気づかぬうちに英語にかぶれてしまったようだ。